奪うからめぐるへ。季節とともに、私たちは生かされている【自然と生きる、わたしの選択 #03】
Release 2025.12.02 / Update 2025.12.02
朝の空気が少しやわらかくなった。
夕暮れの風が、どこか冷たくなった。
そんな小さな気づきを、最後に覚えているのはいつだったでしょうか。
私たちは、季節とともに生きているはずなのに、忙しさに追われて、気づけば春も夏も過ぎていく。
しかし、自然のめぐりは、いつだって私たちのすぐそばにあるのです。
陽だまりのあたたかさや、木漏れ日の揺れ、雨の匂い、夜に光る月のやさしさ、それらはすべて、「あなたの中にも自然があるよ」と教えてくれる静かなメッセージ。
自然とともに生きることは、なにかを頑張ることではなく、感じることを思い出すことなのです。
INDEX
季節のリズムとともに生きる
昔の人は、太陽の動きや風の向きを感じ取りながら、日々を暮らしていました。
時間は数字ではなく、木の芽のふくらみや、鳥のさえずりで測っていたのです。
二十四節気(にじゅうしせっき)、七十二候(しちじゅうにこう)という暦には、その「感じ取る力」が美しい言葉で残されています。
「東風解凍(はるかぜこおりをとく)」は2月の始まり。
冷たい空気の中に、少しやわらかな風を感じ始めるころ。
「蛙始鳴(かわずはじめてなく)」は5月の声。
夜、田んぼから聞こえるカエルの声が、「命の季節が来たよ」と知らせてくれる。
「霜始降(しもはじめてふる)」は10月下旬。
朝の空気が少しだけ張りつめ、庭の草に白い息が降りるころ。
これらは季節を区切るための記号ではなく、自然と心を通わせるための言葉だったのです。
そして今も、その感覚は私たちの中にちゃんと息づいています。
たとえば、朝窓を開けて吸い込む空気。
少し湿っている、乾いている、冷たい、ぬるい。
その「質感」に気づけた瞬間、あなたの身体はすでに季節と会話をしています。
暦を暮らしに迎える小さなアイデア
朝起きたら、空の色と風の匂いを感じる。
それだけで、今日の自分の調子が見えてきます。
カレンダーに「立春」「小暑」「白露」など、季節の節目を書き込んでみる。
玄関やダイニングに、季節の一枝を飾る。
春は菜の花、夏はミント、秋はすすき、冬は南天。
見える景色が変わると、心のリズムも変わります。
旬の野菜をひとつ選んで買う。
「今日は大根がいきいきいきしてる」
「今日はりんごが香っている」
それが、自然と体を整える季節のごほうび。
暦を感じることは、自然とつながる“第一歩”。
「予定を立てるための時間」ではなく、「自分を整えるための時間」に変わっていきます。
自然の声に耳を澄ますということ
自然の声は、決して遠い場所にあるわけではありません。
それは、風が木々を揺らす音かもしれないし、雨粒が屋根を打つリズムかもしれません。
けれど、スマホの音や人の言葉に囲まれた毎日では、そのやさしい声に気づくのが、少しむずかしくなっています。
もし疲れた日があったら、少し立ち止まって、窓を開けて、風の音を聞いてみてください。
いつもより少しだけ早起きして、朝の静けさに耳を澄ませてみる。
鳥の声や、遠くの街の気配を感じてみる。
それだけで、あなたの中に静かな呼吸が戻ってきます。
あるいは、夕暮れ時に散歩をしてみてください。
風にそよぐ木の葉の音、人の足音、遠くで聞こえる生活の音。
その一つひとつが、あなたの心を「いま、ここ」に戻してくれます。
自然とつながる時間とは、何かをする時間ではなく、ただ感じているだけの時間なのです。
五感がひらくと、心もひらいていく
自然を感じるということは、五感を目覚めさせるということ。
朝、湯気のたつお茶の香りをゆっくりと吸い込むと、胸の奥がふっと緩んでいきます。
洗濯物をとりこむ時、陽に温められた布の匂いを感じてみる。
木の椅子に腰かけて、木のぬくもりを感じてみる。
公園の葉っぱを触って、「みんな生きている」ということを感じてみる。
そんな日常の中の小さな感覚が、心を穏やかに整えてくれるのです。
目を閉じて、今という瞬間を、香りや音で感じてみると、過去や未来に引っぱられていた意識が、そっと自分の中心に戻っていく。
自然の中にいる時間は、「わたしの感覚を信じていいんだ」と思い出させてくれます。
五感をひらく5つの時間
1. 朝、窓を開けて“音”を聞く
まだ誰も話していない時間に、耳を澄ませてみてください。
鳥の声、遠くの電車の音、風の動き。
それらを聞くと、心の奥に小さな静けさが戻ってきます。
2. 散歩のとき、ひとつだけに集中してみる
今日は「風」。明日は「木の影」。
感じる対象を絞ると、世界が急に鮮やかになります。
スマホをしまって、ただ歩く。
それだけで「いま」が広がっていく。
3. 香りで心をリセットする
お気に入りのアロマやハーブティーをいれてみる。
湯気を見て、香りを吸い込むと、呼吸が自然に深まります。
雨上がりの土の匂いを感じるのもおすすめ。
それは、自然からの「おかえりなさい」のサインです。
4. “音のない時間”をつくる
テレビやスマホを消して、10分間だけ“沈黙”を味わう。
最初は落ち着かないかもしれませんが、静けさの中で、思考がほどけていくのを感じます。
5. 子どもや動物の感じ方をまねしてみる
彼らは、自然と遊びながら世界を感じています。
風を追いかけ、葉っぱを拾い、石を集める。
そんな無邪気なまなざしが、五感を開くいちばんの近道です。
奪うからめぐるへ
自然界には、捨てるという行為がありません。
木の葉は土に還り、命は命を育て、水は空へ、空からまた地へと巡っていきます。
わたしたちの暮らしも、その流れに少しずつ重ねていくことができます。
台所に立つとき、野菜の皮や出汁がらを、ただ「捨てるもの」として見ずに、もう一度、手を差し伸べてみる。
スープにしてみる、肥料にしてみる。
そのひと手間が、いのちをつなぐ動作に変わっていく。
そうしているうちに、食べものを作ってくれた大地や、水や太陽の存在が、ふっと心に浮かぶようになります。
便利さの中で忘れてしまった「ありがとう」が、暮らしの中にゆっくりと戻ってくるのです。
台所からはじまる、小さなめぐりの実践
毎日の台所仕事は、いのちといのちが出会う場所。
たとえば、捨ててしまいがちな野菜の皮や芯にも、まだたくさんの栄養が残っています。
- にんじんや大根の皮を出汁に
- ブロッコリーの茎を薄く切って炒める
- 余った野菜でスープをつくる
そんな小さな工夫で、捨てるはずだった命がもう一度生きるのです。
「もったいない」は、昔の人の知恵であり、感謝の言葉でした。
ありがとうと同じ響きをもっています。
使い捨てを繰り返しに変える
- ペットボトルの代わりに、お気に入りのマイボトル
- ラップの代わりに、蜜蝋ラップや保存容器
- キッチンペーパーの代わりに、布巾や端切れ
最初は少し手間に感じるけれど、洗って、干して、また使うという動きは、まるで呼吸のように暮らしを整えるリズムになります。
育てる・つなぐ・分かち合う
- ベランダでハーブを育てる
- 収穫したバジルでジェノベーゼを作って、友達におすそわけする
- 使わなくなった服をフリマや地域の回収箱へ
それだけで、「めぐりの輪」が生まれます。
育てることで、命に触れ、分かち合うことで、心が豊かになっていく。
循環する暮らしは、心を整える暮らし
モノがめぐると、心の中の“滞り”も流れていきます。
- 片づけやすくなって、イライラが減る
- 「ありがとう」と思う瞬間が増える
- 一日の終わりに、穏やかに呼吸できる
自然と調和することは、自然を守るためだけでなく、自分をやさしく包みなおすことでもあります。
それは、自分自身と調和することなのです。
めぐりの中で生かされているということ
地球はまわり、季節はうつろい、月は満ちては欠けていきます。
そのすべてのリズムの中に、わたしたちも静かに生かされています。
大きな行動をしなくてもいい。
完璧を目指さなくてもいい。
朝、湯気を見つめて深呼吸すること。
夜、空を見上げて月に挨拶すること。
それだけで十分、あなたはめぐりの一部として生きています。
自然とともに生きるとは、「もっと優しく生きる」ということ。
自分に、誰かに、地球に。
おわりに
今日の風を感じてみてください。
少し冷たくても、あたたかくてもいいのです。
それが、いまのあなたと地球の呼吸。
外に出られない日があっても、窓の光を手のひらに受けてみてください。
光はいつだってあなたを包み、「おかえり」と語りかけています。
自然とともに生きることは、地球のためだけではなく、自分を愛することでもあります。
その小さなやさしさが、また誰かの一日に灯りをともしていく。
私たちはみんな、めぐりの中で、やさしさを交換し合いながら生きているのです。



